図1:三田紀房『ドラゴン桜』1巻, 講談社, 2003年

『ドラゴン桜』で最初に提示される「ドラゴン桜式勉強法」がこの「古文をマンガで攻略」である(図1)。桜木はこれこそが古文攻略に有効な方法なのだと言う。

古典が嫌になる一番の理由は、古文を現代文に変換するのが面倒くさいからだ。だから何が書いてあるのか頭に入ってこない。それでみんなイヤになる。だったら……この話は何が書いてあるのか。登場人物は何を話しているのか。中身をあらかじめ現代文で知って頭の中に入れておけばいい。そうすれば古典の文章を読んでも、容易に話の筋が想像できる。

『ドラゴン桜』1巻

この桜木の採った手法・解説は、矢島・水野という中学生レベルの生徒への最初の指導としては、かなり的を射ている。古文だけでなく、漢文でも有効である。

マンガで「常識」を学ぶ

そもそも彼らレベルの落ちこぼれというのは、古文・漢文を見ただけで拒絶反応を示してテキストを捨ててしまう(というかそもそも読めない)ので、まず古典に対して親しみを持つところから始めなければならない。勉強の本当に最初の段階では「まずその教科に挨拶する」くらいの気持ちで、軽く触れるだけでも大いな「前進」となる(図2)。

図1:三田紀房『ドラゴン桜』1巻

そもそも多くの人が古文で躓くのは、古典世界の「常識」が欠けているからである。文章というものは、その時代の「常識」を持っていることを前提とし、「常識」部分については一々解説しない。

例えば現代日本の文章で「窓の外で右翼の街宣車が通り、うるさかった」と書かれていたとして「右翼」「街宣車」とは何か、「何故うるさいのか」といったことは「常識」として処理され、わざわざ解説されない。しかし1000年前の人がもしこれを読んでも「?」であろう。

同様に現代人が「遠うなるまで聞こゆるさきの声々」と聞いても「さきの声々ってなんだ?」と思ってしまう(ここでは貴人が通る場所を空けるための先払いの音)。こういったものが「常識」なのであるが、こういった前提知識はマンガや映像を通した方が吸収しやすい。

物語の「お約束」は決まっている

マンガで古文・漢文に触れることのもう1つの意義が「物語のパターンに親しめる」ということである。

現代という熾烈なエンターテイメント競争の時代と違い、古典文学では民間伝承や神話などの定型的な物語を、話の細部を変えながら繰り返す「説話文学」などが親しまれてきた。そのためこの時代の物語はパターンが決まっている。

例えば「鶴の恩返し」のように、助けた動物が返礼してくれる話や、仏を一心に信じていたら奇跡が起きる話などである。仏教に関する話では、そもそも信徒を増やすために物語が作られている部分もあるのだから、最後に「やっぱり信じるものは救われるのだなぁ(詠嘆)」というようなオチになるのは、考えてみれば当たり前である。

試験問題を読んでいるときでも、当然このような「物語のパターン」を意識しながら読み進めて、まず損することはない。物語によっては出だしで、「あっ、これはあのパターンかな」と展開とオチが読めてしまうこともある。話のパターンや、物語展開に込められた意図を知っていれば、重要な場面で致命的な読み違いをすることはなくなるだろう。

マンガをいつ、どこまで読むか

私は古文でも世界史でも、勉強の本当に最初は、何はともあれマンガを読むことから始めた。「まずその世界のイメージが、ぼんやりとでも浮かび上がることが大切だ」と考えたからである。

そのため27歳にして、図書館の児童本コーナーに通ったものである(「マンガで分かる」みたいな本は児童本に分類されていた)。もちろん「平日の昼間から児童本コーナーに長時間居座る不審者」として怪しがられたことも、今となっては良い思い出である。マンガを横の席に積んで、閉館時間までずっと読んでたから……。作中でも紹介されている『あさきゆめみし』はもちろん『平家物語』『今昔物語』なども読んだ。

とはいえ、マンガを読むのはあくまで「導入・ウォームアップ」のようなものであり、できるだけ早く原文を読むべきである。

それと桜木は「東大では文法問題はあまり出ないから、文法はテスト直前で十分」と言っているが、これはひどい誤解だ。

文法は読むための当然の前提であり、東大ではわざわざ前提を問うようなつまらないことを避けているに過ぎない。マニアックな文法知識を仕入れる必要は全くないが、単語・文法の基礎固めは古文に限らず語学の王道中の王道であり、文法学習とは「学習全体を効率良くするため」に行われる近道だ。文法を疎かにすれば、単に読解が運ゲーになるだけである(参考:「古文・漢文も文法が大事」)。

マンガを読むのも結構時間がかかるので、高1,2の受験勉強が始まる前の時期に、遊び感覚で読めればベストではないだろうか。

作中で紹介されている『あさきゆめみし』は大作なので、全部読むとかなり時間がかかるから、最初の数巻くらいでいいと思う。一番オススメなのは『今昔物語』などの、説話がいくつも載っているやつで、比較的短時間で読めるし、先述したように、説話はパターン把握そのものが読解に役に立つので、マンガを通して「数をこなす」ことに意味があるのだ。

繰り返すが、マンガ読みは有効ではあるものの、受験勉強そのものにはなりにくいので、マンガばかり読んで原文を読まないのは本末転倒である。マンガを「逃げ口」にしないように注意したい。

【勉強】カテゴリーの記事一覧

LINEで送る
Pocket

投稿日時: 2019/04/25 ― 最終更新: 2019/11/03
同じテーマの記事を探す