図1:三田紀房『ドラゴン桜』1巻, 講談社, 2003年

『ドラゴン桜』という東大攻略マンガの、最も致命的な失敗は、そもそもの前提である「東大受かるだけなら理一が良い」という戦略がおかしいことである(図1、なお理一=理科一類で工学部・理学部コース)。マンガそのものは良くできてるのに、ここだけ何故かとんでもない大失策を犯している。

東大入試の難易度は合格最低点で決まる

東大で一番簡単な科類は理科一類なのか?そうとは考えられない。

何故ならほとんどの年で、合格最低点が理科二類の方が低いからだ。そして、東大は理系なら理系、文系なら文系で問題が完全に共通である。つまり、純粋に合格最低点で科類ごとの難易度を比較することが可能なのである。合格最低点の差は、そのまま難易度の差になる。

一方、『ドラゴン桜』で桜木が述べている「理一最楽説」の根拠は何か?それは「理一の方が募集人数が多く、倍率が低い」ということだけである。こんなバカな話はない。入試は競争であり相対評価なのだから、募集人数がいくら多くても、合格に必要な点数が理一の方が上回ってしまうのなら何の意味もない。

図2はUTaisaku-Webに掲載されている、2001年から2019年までの理系の合格最低点推移グラフであり、赤が理科二類、青が理科一類である。ほぼ全ての年で理科二類(赤)が下回るか、少なくともほぼ五分であることが分かるだろう。年によってはかなり差がつくことがある。

図2: UTaisaku-Web より

科類ごとに採点基準が違う?

ネットの議論を見ていると、たまに次のような意見がある。

「東大では科類ごとに採点基準が違う。理科一類は採点が甘いので点が高くなっているだけで、実は理科一類の方が簡単なのだ」

「科類ごとに採点基準が違う」というのは、昔から東大入試にある「まことしやかな噂」の一つである。ところがこの論理にはおかしい点がある。それは科類ごとに採点基準が違うとしても、理科一類が二類より採点が甘い根拠はどこにも存在しないことだ。理科二類の方が甘い可能性だってあるし、あるいはそんなことを言えば、文一>文二>文三という難易度の並びも信じられないことになる。

それと私は合格体験記や東大対策本をかなり読み込んで情報収集したが、「科類ごとに採点基準が違う」ということを裏付ける証拠は「1つたりとて」見つけられなかった。

そもそも採点基準を科類ごとに変えることのメリットが東大側に存在しない。結局、同じ科類の中で上位数百人が受かるだけなのだから、採点基準を変えても合格者はほぼ不変なはずである。厳しく採点すれば全員の点数が下がるだけだし、その逆もまた然りである。採点基準を変えれば、いたずらに採点システムを複雑にしてしまうだけであるはずだ。

理一はセンター足切りの危険あり

『ドラゴン桜』にもう1つ不利な事実を持ち出すと、センター足切り点は理一が一番不安定で、たまに極端に高くなる年もある(図3)。つまり、付け焼き刃で挑む作中の水野と矢島は、理一だとセンター足切りの脅威に晒される。

例えば2012年度の足切りラインは実に「得点率85%」という異例の高さで、これはその辺の私大なら、センター利用で楽に受かるレベルである。この異常事態のため、模試でA判定だったのに、センターで失敗して足切りされたという話も聞いた。

図3:図はUTaisaku-Webより。青い理科一類の方がグラフが不安定で、最大値も高い(=運が悪いと足切り)。理科二類は、なんと足切りがない「ボーナス年」まであった。

逆に理系で一番低いのは、二次試験の難易度が最も高い理三(医学部)である。応募人数の関係で、東大入試ではこのように足切りと二次の難易度が「ねじれの関係」にあるのだ。

一番簡単なのは文科三類

さらに私自身の体験と、理系の数学問題も解いていた経験から述べるが、作中の受験生のように下積みがほとんどない状態から勉強するなら、文系の方が有利である。私も作中の受験生のように、中学生レベルの学力から東大を目指したが、文系をたまたま目指したため、理系よりは楽であった。

何故なら文系は、英語に並ぶ下積み科目である数学の絶対難度が低く、数学の下積みのなさをある程度は誤魔化すことができるからだ。

理系数学は文系より範囲が広い上に1ランク難度が高いため、その分やり込みの差が如実に出るし、下手な実力では20点にも届かない。一方、文系数学は難度が低いサービス問題がほぼ毎年1問はあり、数学が苦手でも簡単な問題を確実に解き、あとは部分点をかき集めれば合格が見える。

ちなみに意外に思うかもしれないが、英語の重要性も理系の方が上である。何故なら理系の方が総合点は低くなる傾向があるのに、英語は文理共通問題で、配点はどちらも120点だからである。

例えば文三の合格点が350点、理二の合格点が320点だった場合、共通の英語120点の重みは理二の方が強くなる。帰国子女で、数学がほぼ0点だったのに英語で100点超えをして理二に合格、という理系女子も私は知っている。英語が得意な人ほど、むしろ理系が有利である。逆に英語の下積みの少なさは、1年漬けが通用する地理や古文漢文で薄めやすい文系の方が誤魔化しやすいのだ(文系は国語の配点が高い) 。

このように「一般論」で考えれば、東大は理一より理二、もっと言えば文三が一番狙いやすい。しかしここで述べたのはあくまで一般論で、受験生にとって重要なのは自分の適性と進路選択であることは言うまでもない(しかし『ドラゴン桜』で問題になっているのは、この一般論なのだ)。

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投稿日時: 2019/03/19 ― 最終更新: 2019/11/16
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