投稿日時:2018/10/09 ― 最終更新:2018/10/28

きょう一日を、よろこび、努め、人には優しくして暮したい、青空もこのごろは、ばかに綺麗だ。

太宰治『新郎』冒頭より

こわい。こわすぎる。私は、この小説内の太宰治が恐ろしい!これは、涼味満点のホラー小説である。

想像してみてほしい。普段からメンヘラ気質で自殺を仄めかし、実際に自殺未遂なんぞもして、俺はサタンだろうかなどと中二病全開で喚いていた破滅の小説家が、ある日突然、ニッコニコの満面の笑み。子供を可愛がり、どう見ても粗末な夕食を王の晩餐かのように絶賛し始め、清潔に目覚め、会う人皆に愛想を振りまき始めたら、これは只事ではない何かが始まろうとしている!と危機を直感するのは人の当然の本能であろう。それは街から突然鼠が集団失踪したり、雲が奇怪な配列になったり、デジャヴが発生するような、非常事態の先触れ。地獄の門の開門前夜に、真人間の太宰現出す。

あまりにも挙動不審・奇々怪々なので、この「私」は、実は太宰じゃないのかも!…と思った矢先、見透かしたかのような「ゆるせ。太宰治」の署名。やっぱ太宰じゃねーかっ!!

こんな「綺麗な太宰治」は、僕たちの知っている先生ではありません。この人は偽物。フェイク。ストーカーの脳内にだけ存在するような、うんこしない太宰先生。本物はもう、とっくに湖の底で、されこうべを晒していたのかもしれません。湖の精が出てきて、これがあなたの落とした太宰?と尋ねたから、いいえ僕たちの先生はとんでもないメンヘラで救いようのないダメ男です、と答えたら、あまりにも正直だったから「綺麗な太宰治」を与えてくれたのかもしれません。

違うやい違うやい。先生はもっとダメ人間だよ。先生はもっと堕落すべきなんだ、と泣きながら読んでいたら、オチは最後に書いてあって噴飯した。

この朝、英米と戦端を開くの報を聞けり

やっぱホラーじゃねぇかっ!!

現実逃避に余念のない男、太宰治

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