投稿日時:2018/12/25 ― 最終更新:2019/04/17

随分ライトで通俗寄りの作品である。『若草』という女性向けの雑誌に寄稿されたものなので、あのような女性の間で談義できる締め方にしたのであろう。全体に聖書をモチーフにした香りを漂わせているのが、かろうじて文学っぽい。

まあ言ってしまえば、しっかり者のツンデレ長女・律子と結ばれるか、はたまた甘えん坊で感情を顕にするデレデレ次女の貞子を娶るかの二者択一を如何せん、という南国で極楽とんぼが思いついたようなヒジョーに呑気な話であります。ギャルゲーであります。アホみたいにポジティブな『新郎』といい本作といい、多分列強との開戦の影響で太宰さん、現実逃避して頭がハッピーハッピーになってます(本作を脱稿したのは真珠湾攻撃の起きた1941年12月)。ていうか、求婚すればOKなのは確定なんすね。とんだけモテ男なんですかあなたは。この話が「ギャルゲー」的であるのは『源氏物語』なんかと違って、最後に「選択」が明示的に迫られている点。選択がないのはただのノベルってことで。

「律子と貞子は、律法と福音をモチーフとしている」との説がある。つまり最後のおっさんは福音(イエスの教え=新約聖書)を選ばせる寓話として聖書を引いたのだが、教養のない主人公は勘違いして律法(モーセの教え=旧約聖書)を選んでしまったからブチ切れたと。そもそも二人の名前はおっさんが読者に語る際に設定した偽名なので、おっさんの意図が表れているはずであり、この説はかなり説得力がある。「私ならば一瞬も迷わぬ。確定的だ」というおっさんの妙な力強さに爆笑である。太宰はキリスト教を熱心に研究しているので、作家の視点はおっさんと同一なのかもしれない。 彼のような駄目人間はしっかり者を選ぶべきにも思えるが……

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