ペヤングソース焼きそば / 愛せ・憎め・生まれ変われ!

ペヤングの「変われないところ」が嫌いだった。変わらない良さがあると人はうそぶくが、この場合、それは変化することに怠惰な者の言い訳に過ぎない。

つまり私はペヤングと出会ってからの20年間、ずっとあの「湯切りのツメ」を忌み嫌っていたのだ。湯切りはとっくの昔に進化していた。日清UFOは1999年2月には「ターボ湯切り」に切り替えていたんだ。私はあのターボ湯切りを初めて試したときから、一瞬で「これは、カップ焼きそばの革命だ!」と確信し、間もなくあらゆる類似商品に搭載されるだろうと考えた。

ところが、なぜかペヤングだけは頑固にツメ型の湯切りのまま変わらなかった。「お湯を切るときに“だばぁ”したエピソード」なんてのは言い古されたネタであって、もはや何の面白味もなかった。それに湯切りが非効率的だと、お湯が捨てられるまでの時間が長くかかり、麺の仕上がりにムラができる。面倒な湯切りにしびれを切らして、お湯をいくらか残したまま湯切り中断してしまう人もいただろう。

ペヤングの“怠惰”はそれだけにとどまらなかった。ペヤングの商品開発というのは、大体の場合において手抜きだ。そば本体や具に一切の手を加えないまま、ソースだけ入れ替えて「新商品」としてバリエーションを水増しする。そういう表面的な変化しか加えないから、ペヤングの新商品はつまらない。いつまでも決定的な新定番を生み出せない。そうして常に「いつものペヤング」に帰ってきてしまう。

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このようにペヤングについて不満を抱いてきた私だが、カップ焼きそばを購入するときは、ほとんど常にペヤングを選択してきた、生粋のペヤング好きであることを明記しておきたい。多い時は、月に10食以上もペヤングを食っていた時期もあるほどだ。これだけ不満を並べながらも食べずにはいられないペヤングの魅力とはなんだろうか?

液体ソースのまろやかな味は確かに良い。他社の粉末ソースは軽薄で偽物という感じがする。またそば本体の絶妙な食感や味も見事だ。

だが私が最大の特徴と考えるのは、実はコショウとふりかけ。これが他社とは決定的に違う。特にふりかけが美味すぎる。乾燥した紅ショウガのピリっとした感じが最高だ。

ペヤングの美味さはコショウとふりかけに依る部分が大きいため、食す際、これらを一箇所に集中的にかけてしまったり、先に食べ尽くしてしまうのは、戦略上の最大のミスと言える。麺を食べるときは常にこれらの調味料を味わえるように、全体にまぶしつつ、麺の表層だけ先に食べないように注意すると、ペヤング・エクスペリエンスが劇的に向上する。コショウはバランス良くふりかけるのがやや難しいので、慎重に散布しよう。

ついでに書くと、ソースをかける際にもドバドバと注ぐのではなく、全体にバランス良く浸透するように、少量ずつ、まんべんなくかけるように注意すると、より美味くなる。食後のカップにソース溜まりができないようにかけたい。理想的なソースのかけかたをすると、箸でガバガバと麺を撹拌する必要すら生じない。ソースは多めに入っているので、無理に全て使い切る必要はない。

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ところで冒頭の湯切りの不満については、意外な事件がきっかけで解消された。ペヤングにゴキブリが混入していたことがSNSで拡散し、ニュースでも大きく報道されたのである。覚えている人も多いだろう。あれをキッカケとしてペヤングの容器がリニューアルされ、その際に他社と同じ新型の湯切り(もうただの定番だが)に改良されたのである。これを知ったときは私もひどく喜んだものだ。

私はこの新しい湯切りを使うたびに、ペヤングの生産ラインに飛び込み、一緒に加熱されて果てたゴキブリの尊い犠牲に思いを馳せる――

***

ゴキブリは工場のベルトコンベアーを見下ろしていた。地上のペヤング王国を支える、変わらぬ箱、変わらぬ味。地上のあらゆる食を占領するかのような勢いで量産され続けるペヤングの大軍が、今日も日本全国のコンビニやスーパーに配送される。しかし時代に変化適応しないものは、いつの日か死に絶える。またその旧態依然とした形状が、ペヤングファンの間でも論争を起こしていることも知っていた。

ゴキブリは身を投げた。背から羽を出し、滑空した。さながら漆黒の天使のように。

「ペヤングファンの心よ、ひとつになれ!」

ゴキブリはそう願い、加熱前の麺に飛び込んだ。やがて彼の全身を、恐るべき業火が焼き始めた……

……数日後、一匹のゴキブリの死体が発見されると、発見者はSNSに写真を投稿して助けを求めた。「ゴキブリが息をしていないんだ!」。すぐに救助隊が駆けつけたが、時既に遅く、ゴキブリの体はペヤングの油でテカりながら冷たくなっていた。これに涙したまるか食品は、二度と同じ悲劇が起こらぬよう、容器を改良し、湯切りは最新式に改められた。

「ゴキブリは犠牲になったのだ」
誰かがそうTwitterでつぶやいた。
「古くから続く因習……。その犠牲にな」

***

――こうしてペヤングの原罪は贖われ、日本のペヤングファンは「ワンペヤング」を標語に団結した。

聞こえてますか。あの時のゴキブリさん。あなたのおかげで、ペヤングがまた少し美味しく食べられるようになりましたよ。

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投稿日時: 2020/01/25 ― 最終更新: 2020/02/07
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