子供の最初の一言が地獄の呼び水

“天上天下唯我独尊”

生後5秒の釈迦

姪が言葉を喋るようになったそうである。言葉を覚えた途端に、まあよく話すそうだ。

私は昔から、子供が最初に発する一言は、この世のものとは思えないほど恐ろしいと思っている。幼子が最初の一言を発するために開いたまん丸の口は、まるで地獄の深遠に通じる大穴だと思う。

何しろ、それまでずーーーっと一緒にいたのに一言も話さなかったやつが、ある日突然、言葉を発するのである。つまりその子供の思考が、ここで初めて開帳されるのである。これが恐ろしい。こいつは一体、永き沈黙期間の間中、何を考えていたのか?私をどう思っていたのか?それが言語化されてしまう。スティーヴン・キングの小説より、よほどホラーではないか。

その言葉は「まま、かおへん」かもしれないし「うんこ」かもしれないし”I hate you.”かもしれない。言葉を待つ親は、断罪を待つ被告人である。

最も恐ろしいのは、自分の子供が太宰治だった場合だ。太宰は最初の一文でえぐってくる。「お別れいたします」「恥の多い生涯を送ってきました」――これが生涯最初の言葉として、いきなり繰り出されたらどうする?

犬や猫が言葉を覚えなくて本当に良かったと思う。例えば猫が3年経ったら言葉を覚えたとする。そうすると、最初の一言は「おまえ、ダメ人間やなぁ」かもしれない。猫と人間の共生は、彼らの沈黙によって保たれている。

ところで昔、ドリームキャストで『シーマン〜禁断のペット〜』という、世にも珍妙なゲームが発売された(下図)。

『シーマン〜禁断のペット〜』ビバリウム, 1999年

「喋る人面魚を飼ってマイクで話す」という、ただそれだけのゲームなのだが、こいつが「成長は、自分の無能さに気がつくことからスタートする」とか「ほとんどの人がみんな、「自分は勘違いされてる」って思ってるみたいよ」とか、妙な哲学を抜かしだすのだ。私は黙って電源プラグを抜いた……

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投稿日時: 2020/01/03 ― 最終更新: 2020/01/04
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