投稿日時:2018/09/24 ― 最終更新:2018/11/25

ある日の午後のことである。私は大学で友人の谷崎と共にアールグレイティーを飲みながら、円形テーブルを間に挟み、向かい合って性についての議論を交わしていた。体位について話題が及んだとき、彼はまるで自分こそがその領域の大家であるかのように、俄に雄弁に語り始めた。

「私は体位の選択について悩んだことがありません。

男女が交わる際の最適解、神なる設計の始原の意図、それが騎乗位なのは瞭然であります。男女が夜な夜な事を始める際に、さてどうしようか、あたしはバックで獣のように攻められる好きだわ、などと意見交換する必要はありません。困ったら騎乗位。これで解決です。

騎乗位には3つの優れた美点があります。

まず第一に、男が疲れません。男は大の字で寝ているだけでハチャメチャが押し寄せてくるので、楽なものです。働き盛りの男が疲れないということは、それだけ仕事にエネルギーを費やせるということであり、寝坊とも無縁です。すなわち、収入も自然と上昇し、一族繁栄に繋がります。夜は獣のごとく交わるのに、昼はやり手のサラリーマン。これです。これに間違いなく女は惚れます。すると夜の営みは一層燃え上がり、夫婦の絆も益々強固なものとなるのです。

第二に、他の体位と比べて女性の身体のより深くまでイチモツが達し、女はより燃え上がります。これは地球の力を借りているためです。ニュートンはりんごの落下を見る刹那に、男女の営みの究極系も自ずと理解したに違いありません。万有引力の働きにより、雫が速く流れ落ち、意図せぬ懐妊の確率も微粒子レベルで低下します。この結果、男女の絆はさらに深まり、ついでに男の性的能力への評価も自動的に高まるのです(寝てるだけなのにですよ)。こうして家庭円満、我が子壮健、課長昇進といった幸福が自ずとやってきます。女性が主導権を握っているので、フェミニズム的にも理想形を体現しており、平等社会に近づきます。

そして第三に、行為の最中に第三者が乱入してきた場合に、男は咄嗟に女を突き飛ばして第三者に投げつけ、その場から逃れることができます。この畜生、などと非難する前に、まあ聞いてください。この場合に想定される第三者とは、目を血走らせて錯乱した女の亭主です。そんな男が行為の場に乱入してきたら、最悪死人が出ます。これでは3人全員が破滅するでしょう。そこで彼の女房を投げつけることにより、乱入男は手が塞がって追いかけるのが不可能になり、また「あいつはいざとなれば女を盾にする卑怯者だ。おまえも目が覚めた思いだろう」などといって、関係は丸く収まります。裸で逃げ出した男は、あえて悪漢の汚名を着て皆の運命を救ったのです。このような機智に富み用意周到、行動力も抜群な男が、競争社会で頭角を現さぬ道理がありません。全裸で走り回る彼も明日には特務抜擢、米国出張、諍い無縁というわけです。

聞くところに依れば、かの剣豪、宮本武蔵も行為の際には必ず騎乗位を選択し、この防御術によっていつでも奇襲に備えていたそうです。逆に調子こいて正常位でアヒョーンしていた愚か者たちは、不意打ちを防げず子孫を残すのが困難だったはずです。つまり騎乗位とは、戦国時代の淘汰を生き延びた最強の体位でもあり、ダーウィニズムはこの体位の優位性を強烈に裏付けるものです。

世の中には変に学識ぶって「人間の祖先である猿がバックでやってるから、バックこそ正当だ」などと抜かす輩がいますが、宮本武蔵の名前を出されれば、さすがにぐうの音も出ないでしょう。まさか現代という軟弱な時代に、大和最強の剣客の知恵を否定できる者などいるはずもありません。やはり、騎乗位こそ最強の体位なのです」

この話を真に受ける読者もいるかもしれないから、念のために付け加えておくと、彼、すなわちピエール・谷崎は童貞である。彼の言葉を決して脳半球にそのまま取り入れてはならない。

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