教室に女子が、彼女の恐るべき競争心を誇示するかのように、ノートを口に咥えたまま進入し、その表紙には「“優”は私のもの」と書き殴られている。

その娘はどかっと私の隣に腰を降ろし、試合に向かうゴルファーが抱えるような、巨大な荷物を周囲にぶつけながら、彼女の戦争道具を机上に展開する。私が冗談混じりに「戦争が始まるね」と話しかけると「全然勉強してない」と余裕しゃくしゃくの返事。

私が訝しがって周囲の人に「勉強した?」と尋ねて回ると、異口同音に「昨日はずっとネットしてた」「今日が試験日だったの?」と応えるので、私は不安になってしまった。周囲の生徒は解答用紙の氏名欄に「負け知らず」「令和最大のエリート」と誇らしげに記している。戦意喪失した隅っこの学生は、解答用紙を受け取っただけで退出を申し出たほどである。私は静かに自分の氏名欄に消しゴムをかけて「昼行灯」と書き直した……

教授が試験始めの合図を出すと、隣の娘はナチの暗号解読を試みる通信兵のように猛然とペンを走らせ始め、その勢いの放つプレッシャーで「遊びに来たの?」と私を横殴る。配られた用紙はあっという間に埋め尽くされ「もっと紙をください!」と、定年間近の教授の衰えた全身運動にムチを打つ。なるものか、と周囲の生徒も盛んに紙を要求しだしたので、教授の試験は開始40分で重版出来、紙を取りに教室を出ていかねばならなかった。

試験が終わり、隣にチラと視線を投げると、彼女の用紙は裏面まで埋め尽くされている有様だった。帰り際に「さすがだね、敗北を知らぬクイーン」と話しかけると、彼女は試験前とは打って変わってニコニコしながら「もう〜、全然自信ないの!“不可”だぁ〜」と、私が気絶しそうなくらい可愛い声で応えた。

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投稿日時: 2019/07/25 ― 最終更新: 2019/09/26
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