不味い!東大飯 第二回「カレーライス」

お待たせして申し訳ない。教授の時計が狂っていたせいで、二限は5分遅く始まり、5分遅く終わったんだ。さて、今は昼時だから、中央食堂は間違いなく大混雑だ。東大には他にもメトロ食堂なんかもあるけれど、どこも長蛇の列を作っているから見た瞬間にUターンしたくなる。ハッキリ言ってその待ち時間で近所の定食屋にでも移動した方が遥かに健康的で満足度が高いのだけど、今回は東大飯の紹介ということだから東大内部で食べよう。

ところで東大で日々昼食を済ませていると「人はなぜ飯を食べるのだろう?」という疑問について、今更ながら逡巡せずにはいられない。これは多分、美味い飯を毎日味わっていたり、あるいは逆に食べるものが全然なかったりする場合には、ちっとも疑問として顕在化しないことなんだ。飯を食べることを栄養補給のための処理行為としてこなしている者だけに舞い降りる哲学なんだ。いや、話が逸れた。そろそろ僕たちが注文する番だね。「お次の方どうぞ!」「カレーの中で」

そう、今回頼むのは東大で「一番人気」の定番メニュー「カレーライス」なんだ。前回話したけど、昼飯に麺類を頼むと会計前にのびてしまうので、必然的にご飯物を頼まなければならない。そしてこのカレー、なんと生協会員価格だと250円なんだ(中の場合)。つまり金のない生徒、あるいはメシ代と本代を常にトレードオフで思考してしまう僕のような書痴にとっては実に有り難いメニューになっている。月初めに仕送りを使い込んだ東大生が「これから毎日カレーだ……」と嘆いているのはよくある光景さ。このボリュームで250円は価格破壊だと僕も思うよ。駒場時代にこのカレーを当たり前のように食べていたら、キャンパスの近くにある「Lucy」の650円大盛りカレーが妙に高いと感じてしまった。僕はこれを「金銭感覚の逆狂い」と呼んでいる。50円追加で大盛りになるけど、もっぱらライスだけ増量されてルーはあまり増えないから、あまりオススメはできない。

正午頃は席がほとんど埋まっているから、一人用の席を利用することになるだろう。おっと、運良く連続した席が空いているからここに座ろうか。

では「カレーライス」いただきます……。もぐもぐっ……もぐもぐっ……。ああ、なんというか、「カレー」だ……。それ以上の感想が出てこない。食物の絶滅した未来社会で、未来の日本人たちが記憶だけを手がかりに人工物を合成してカレーを生成したら、恐らくこんな味が再現されるのではないかという、普遍的日本カレー。無論美味いとは言えない。そもそも東大で頼むカレーとは、食の豊かさを感じるためのものではなく、生き延びるために食うものだ。サバイバルのためのカレーなんだ。

東大で「カレーライス」を食べるという行為、それはまさに「東大飯」がなんたるかを象徴している。東大食堂に「美味い飯」を求めて来てはいけない。飢餓状態による集中力・判断力の低下を回避するため、とっさに腕を伸ばしてかじりつく飯、それが「東大飯」なんだ。 徹底した効率主義により受験戦争を勝ち上がった東大生にはおあつらえ向きだと思わないか。

僕たちが今置かれている状況を冷静に観察してみよう。学生と観光客ですし詰めになった食堂で、見知らぬ他人を前後左右に挟みながら、美味いとも不味いとも言い切れない、無色透明な水の如き「カレーライス」を無言でただ流し込む。ここは厩舎、僕らはそこで養われる家畜。寝ぼけた眼をこすりながら、ジェンダー論の知識を頭に叩き込み、死なないために食料をあてがわれ、再び教室へ帰っていく。

こんな日が続くと、僕は無性に赤門から飛び出したくなってしまう。そして少しくらい高くとも、外の世界の食堂で飯を食べながらこう思う。ここでは、人間だ。美味いものを平らげる幸福のために今飯を食っているのだと。

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投稿日時: 2018/12/23 ― 最終更新: 2019/07/25
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