食器が物を食べ、便器が糞をしているではないか

19世紀前半に、ある先見の明を持った夢想家は、未来の世界では道が人間の代わりに歩き、床が羽を持って飛ぶのだと予言し、人々から大いに失笑を買ったそうである。ところが今日ではその夢想家の言った通り、空港に設置された動く歩道は我々の代わりに歩いて、どこまで続くかも知れないあの異様に長い通路を運んでくれるし、そのまま空の玄関口まで行けば、今度はいつの間にか床から羽が生え、そのまま高度1万メートルまで羽ばたいてくれるのだ。もはやあの天才的な夢想家のことを笑う者は皆無であろう。

であるから紳士淑女の皆さんには、これから私が述べることもどうか笑わずに聞いて欲しい。宣言しよう。未来の世界では食器が我々の代わりに食事をし、便器が持ち主に代わって糞をするのだ、と。

それはこういうことである。未来人の脳にはインプラントが埋まっているので、もはや食事を味わうのに食べ物を口に運ぶ必要はなく、機械が同等の刺激を脳に勝手に与えてくれる。しかしデータにない食べ物や料理を初めて味わうときは、デジタルデータを購入するか、より格安に手に入れるには自分で料理する(電子書籍の世界に倣って「自炊」と呼ぶ)必要がある。「自炊」した場合、センサーのついた食器で食べ物を刺したり、砕いたりして、その味覚・食感・風味を愉しむのである。ここではまさに、食器が人間に代わって食事をしているのだ。

「自炊」してデータを得た後は、食料はそのまま処分する。栄養は体内のナノマシンが専用ドリンクを無駄なく分解して作り出すので必要なく、味覚はデータがあれば無限に味わえるので、本当に食べる必要はないのだ。というか本当に食べたら、退化した未来人の内臓は負荷に耐えられないであろう。さて、そういうわけで食料を捨てるが、ゴミ箱に捨てると大家さんに怒られる。未来人の当然のマナーとして、便器に捨てるのである。未来の世界の便器は食料の分解に特化しており、リンゴやスパゲティを放り込むと、それを自然界で分解しやすい「具素」と呼ばれる状態にして流してくれるのだ。このように未来の世界では、便器が人間の代わりに糞をしてくれるのである。

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投稿日時: 2018/12/03 ― 最終更新: 2018/12/05
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