ガリガリ君の当たりが出なくて困ってます

2021/08/11 ・ 雑記 ・ By 秋山俊

夏。実家でジャバ・ザ・ハットと化した我が母が、ソファに鎮座したまま「ガリガリ君のイチゴ味が食べたい……」と漏らしたので、私は34度の炎天下にガリガリ君を求めに行った。

しかしイチゴ味は根本的に品薄なのか、どこを探しても見当たらない。私はやむを得ず、スーパーのアイスコーナーに散乱したソーダ味と梨味を、敗戦処理をするかのように漁って家に帰ってきた。ファミコンブームの時代に、子供にねだられたにも関わらずドラクエ最新作が買えず、仕方なく「ミシシッピー殺人事件」を買ってきてお茶を濁し、「僕が欲しかったのはこれじゃない」と恨まれた全国の親の気分はこんなものかと、今更ながらに沁み入った。

私が薦めて以来、母は生涯で初めてガリガリ君の美味さに開眼し、ここ1週間ほどガリガリ食べているが、困ったことがある。当たりが一本も出ないのである。

気まずいことに、私はこう見得を切っていた。

「母さん、ガリガリ君ってのは、たまに当たりが出るのです。自慢じゃないが、私は子供の頃から道端に落ちているものを交番に届けたりして、うず高く徳を積み上げてきたので、ガリガリ君を買うとたちまち、当たりを引き当ててしまったものです。私のカルマなら、10本に1本は当たるでしょう。今に、芋づるみたいに我が家にガリガリ君が舞い込みますよ」

そう豪語してから2人で合計20本くらい食べた気がするが、未だに1本も引かないのである。ハテナ。私はパッケージを裏返してしげしげと眺めたが、やはり今でも「当たりが出たらもう1本!」の文字が踊っている。

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陰謀。まず私は八百長を疑った。しかし商品の発売元である赤城乳業が不正をするとは考えにくい。「当たりが出る」という表記をしている以上、当たりを混ぜないのは景表法に抵触する。小売店はガリガリ君を箱買いした際に1箱32本セットで仕入れるのだが、この1箱に1本の当たりが含まれる、というのが定説のようだ。トレーディングカードで、1箱内のレア数が決まっているようなものか。

ガリガリ君の当たりに関しては「袋のバーコードを見ると当たりが分かる」という、まことしやかな都市伝説が存在する。しかしそんな簡単に割れるなら、長いガリガリ君の歴史の中で、あっという間に検証が終わって公然の秘密と化していたことだろう。

さっきトレカの話をしたが、一部のトレカでは、特別なレアカードにわずかな金属が含まれるため、金属探知機を使うと、箱買いした中から最も価値の高いパックだけ引き抜いてしまうことが可能だそうである。一部の悪徳業者は、こうして骨抜きにしたトレカのボックスセットを「新品未開封」としてネットに流しているのだという。しかしガリガリ君の当たりは、木のスティックに当たりの判を押しているため、金属探知機で探知することは不可能と思われる。

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もし32本中1本だけが当たり、つまり確率3.1%という仮定が正しかった場合、昔の私はべらぼうに運が良かった気がする。やはり、子供の頃の私は徳の塊だったのである。しかし長じて私は人を疑うことを覚え、道心はすれて道を外れ、徳はとうに底を尽き、悪を覚えて底を抜け、今では未来も質に入れ、生きる資格をどうにかポケットにねじ込んでいる始末。

そうだった。私はとっくに、ガリガリ君の当たりを引く資格を喪失していたのだった。それで多分、スーパーにある当たりは、きっとみんな、穢れを知らない少女が引いていって、私はその徳の残飯を拝しているに過ぎないのだった。

「ガリガリ君の当たりを引くことは、賢しい確率論などではなく、あなたが人間か否かで、決まる。人間に、なることです。人間!それ以外に、当たりを引く方法は、ない。」

いつか出る、いつか出ると念じながら、食べ終わったスティックの表裏を2,3度ひっくり返して、しょんぼりしながらゴミ箱に投げ捨てる夏の日の寂しさ。

omne animal post coitum triste
(なべての動物は性交のあとに悲し)

現代風に言うなら、なべての大人はガリガリ君のあとに悲し――

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初版:2021/08/11 ―― 改訂: 2021/08/24

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