オムライスと幸福

2021/06/05 ・ 雑記 ・ By 秋山俊

なんとなくオムライスは幸福と結びついている気がする。

単に個人的な子供時代の体験からそう思うだけかもしれないが、オムライスとは無性に幸福を目指す食べ物なのだという気がしてならない。

黄色いカンバスに塗られた真っ赤なトマトケチャップが波打っている様子と、卵の濃厚な甘みが、幸福を感じさせるのだ。いや、それは後付の理由で、あるいは単に、子供のランチセットに小さなオムライスがくっついていて、それを食べていた記憶を思い出すから、ノスタルジーに浸って幸福感を味わえるだけなのかもしれない。わからない。

唯一確かなのは、自分がオムライスを食べているときに幸福だということである。

幸福を喰む料理。

世の中には無数の料理が存在するが、幸福そのものを味わう料理はオムライスくらいのものだ。そう思わないか。

***

あるフランスの映画監督が遺した映画に『幸福』という作品がある。内容は、脳みその半分以上が豆腐で構成されている感じの能天気男が、無邪気にも自分が浮気したことをペラっと妻に喋ってしまい、妻は自殺するのだが、死体を見たその男は、なぜか彼女が「不慮の事故で死亡」したイメージを思い浮かべるのである。

悲しい。哀しい。彼女は「事故で溺れ死んだ」のだ……っ!

このサイコパス系能天気男は、認知バイアスと大の仲良しで、自己欺瞞であっさり記憶を修正してしまい、間接的に殺した妻のことを事故死と信じ込み、なんの迷いも罪悪感もなく浮気した女と結婚して「幸福」な生活を送る。男の「幸福」を象徴するかのように、画面の片隅には「ひまわり」が映り込む。

ひまわりは黄色い。オムライスも黄色い。黄色はやはり幸福のシンボルカラーなのだ。

(ちなみにこの作品の監督はアニエス・ヴァルダという女性で、女性がこのような「男性の痴呆的幸福」を描いている点に、私は底知れない怨嗟あるいは軽蔑のようなものを感じ取るのだが、映画自体は非常に美しい映像美を基調としたアイロニーに満ちた秀作なので、気が向いたら観てほしい)

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投稿: 2021/06/05
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