なぜウルトラマンはゼットンに敗れたのか?

2020/12/21 ・ 雑記 ・ By 秋山俊
スペシウム光線を吸収するゼットン(『ウルトラマン』円谷プロ)

タイトルでいきなり56年前のドラマのネタバレをかましてしまったが、そんなことは些末な問題に過ぎない。犯人はヤスである。それより、ウルトラマンの敗因の究明が切に求められているのだ。

ウルトラマンはなぜ敗北したのか……これが幼少の頃からのリフレイン、私にとって解かねば進めぬ関門であった。解かねば、私はいつか彼と同じ轍を踏むことになる、という確信があった。

子供たちは、ウルトラマンの敗北を超えねばならぬ。「最終回だから敗けたのさ」などとメタ的な解釈をして知った顔をしている大人には、西の空に明けの明星が輝く頃に飛んでいく、一つの光の正体が何なのか、永遠に分からないのだ。

結論から言おう。

ゼットンは、勝つべくして勝った。ウルトラマンは、スペシウム光線を撃ったのではなく、撃たされた。

そして敗北した。ウルトラマンは踊らされていたのだ。そしてまんまと、お決まりの物語の結末だけ塗り替えられてしまった。すなわち、スペシウム光線を撃って死んだのは怪獣ではなく、当のヒーローであった。

つまりこれは結婚詐欺である。途中までウルトラマン逆転を演出しておきながら、子供たちの期待はぬけぬけと粉砕された。

『ウエストワールド』に見る「物語が乗っ取られる恐怖」

ウルトラマン vs. ゼットン 考察

これだけではよく分からないだろうから、今一度、この絶望のシークエンスを確認願いたい。ウルトラマンが出現してからの攻防は……

キャッチリングで動きを止める
→当たり前のようにリングを粉砕(図1)

八つ裂き光輪で直接攻撃
→バリアーで光輪が砕かれる(図2)

格闘戦
→逆にねじ伏せられる

スペシウム光線
→吸収されて跳ね返され、ウルトラマン敗北

図1:縛られたまま光線を放ち、そのスキに拘束を破壊するゼットン(『ウルトラマン』)
図2:ゼットンシャッター発動時のゼットンは恐竜級の可愛さ(『ウルトラマン』)

まずもって、「宇宙恐竜」を自負するゼットンに対し、地力の時点で差がついていた感は否めないが、ウルトラマンの戦術の全てが功を成さない。動きを止めるハメ手でもダメ、直接攻撃もダメ。

「ゼットン合成怪獣説」というものが存在し、「これまで戦ってきた怪獣のデータがゼットンには含まれている」という話があるが(実際に全身のパーツが寄せ集めっぽい)、それがまことしやかに流布するほどの完璧な対策が見て取れる。ノベライズ版では、育ての親のゼットン星人により、全て対策されていたことが明かされているらしい。

このように万全たる対策によって、ウルトラマンの希望を1つずつ残酷に潰し、英雄の精神を囲い込み、追い詰め、そして袋小路の壁に書かれた「スペシウム光線…」という偽りの希望をチラつかせることによって、ウルトラマンはスペシウム光線を撃たされた(図3)。

図3:追い詰められ、スペシウム光線を放ってしまう(『ウルトラマン』)

ゼットンは笑っていただろう。無論、その黒き無貌の闇の奥に何がうごめいていたのか、知る人は誰もいないのだが、生まれて間もないヤツは確かに、赤子が本能で知っている邪悪な笑みを浮かべていたに違いないのである。

スペシウム光線は対策されていた。いや、むしろスペシウム光線の吸収こそが切り札、ジョーカーであったに違いない(図4)。

図4:スペシウム光線を跳ね返すゼットン(『ウルトラマン』)

ウルトラマンは詰んでいたと言える。おそらく、スペシウム光線を放つ決心をする前から。

彼はどこで見誤った?変身したときか?ゼットン星人が断末魔を挙げたときか?それとも、あるいは、ベムラーを追って地球に来たときから、既に敗北は始まっていたのか?ウルトラマンの対策はそこから始まっていたのではないのか?

倒れたウルトラマンの脳裏に、これまでの戦いの記憶が駆け巡る(図5)。分からない。分からないのだ。どこで手を誤ったかなど、漠たる人生の混沌の中で、誰も真の意味では特定することができない。成功体験。あるいはそのようなものこそが、彼を死に至らしめる、極上の毒酒であったかもしれぬ。得てして生命は、己の最大の武器によって、自ら首を絞めるものである。

「最後にはいつも、スペシウム光線で勝利してきたのです」――過信。それが効かない敵が、過去にいなかったわけではない。その意味を十分に吟味できなかったゆえの過信。また必殺技がその威力を十分に発揮するには、必殺技を放つまでの過程こそ命である。それを一番分かっていたのは、必殺技をいつも最後まで温存していた、当のウルトラマン本人ではなかったか?二万年のウルトラ人生の中での、最大の不覚。

図5:死の暗闇の中で、これまでの闘いを回想するウルトラマン(『ウルトラマン』)

だが彼は追い詰められていた。腕を十字に組んでしまった。それは敵へではなく、自分に対する十字架となった。「スペシウム光線を撃てばいいじゃないか」――悪魔の囁き。安易な考え。願望。オプティミズム。既にそれを思考していたのは、腕を十字に組ませたのは、ウルトラマンではなかった。その背後であやつり糸を繰る、ゼットン星人の亡霊だったのだ。

「なぜヤツには攻撃が効かない?なぜヤツは絶大な力をチラつかせながら、ただ防いでばかりいるのだ?考えるのだ!今までにも効かない敵はいた。ヤツにもスペシウム光線が効かないぞ!何もかも見抜かれているのだからな。逃げるのだ。三十六計逃げるに如かず。退却は敗北ではない。制限時間内に君を倒すのは、極めて困難なのだからな」

なのになぜ君は光線を放ってしまったのか。私は大人になってからも、この場面だけを繰り返し見る。そして宿痾の悪夢のように、ウルトラマンは毎回、悪魔の奸計に手繰り寄せられて、自らにトドメを刺してしまうのだ。勝てていたのだ!逃げてさえいれば。ゾフィーと特捜隊がいたのだから。

***

私はずっとこの敗北を胸にしまっている。時はいま、欲望の怪獣が跋扈する21世紀。我々のデータは常に収集され、対策されている。そして私の前に、私にとってのゼットンが現れたときに、こう言ってやろう。

――「スペシウム光線を放つとでも思っているのか?」

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投稿: 2020/12/21
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