どうにかなる。どうにかなろうと一日一日を迎えてそのまま送っていって暮しているのであるが、それでも、なんとしても、どうにもならなくなってしまう場合がある。 太宰治『玩具』(以下同様) 『猿面冠者』に始まり『懶惰の歌留多』で […]
この詩を読んでみてほしい。まるで鉄と油の臭いがするようだ。人間を表現するような言葉はほとんど排除され、無機質な機械の重量感と無感情さが詩から伝わってくる、悪魔的に力強いメカニカルな詩。 朔太郎は「通行する軍隊の印象」と書 […]
日は断崖の上に登り憂いは陸橋の下を低く歩めり。無限に遠き空の彼方続ける鉄路の柵の背後うしろに一つの寂しき影は漂う。 ああ汝 漂泊者!過去より来りて未来を過ぎ久遠の郷愁を追い行くもの。いかなれば蹌爾として時計の如くに憂ひ歩 […]
『ニイチェに就いての雑感』は、詩人・萩原朔太郎が「ニーチェ=詩人」という切り口から試みた評論であり、哲学論であり、詩論であり、同時にまたそれ自体が散文詩でもある。この随筆には、朔太郎の種々の芸術観が表れており、彼の作品を […]
当時破滅的な精神状態で生活していた萩原朔太郎が、雑然とした珈琲店で酒に溺れる様子を詠った詩。 坂を登らんとして渇きに耐えず蹌踉として酔月の扉(どあ)を開けば狼籍たる店の中より破れしレコードは鳴り響き場末の煤ぼけたる電気の […]
鹿島茂が何年か前に『ドーダの人、小林秀雄 わからなさの理由を求めて』(’16, 朝日新聞出版)を出し、ドーダ論殺法で小林秀雄をめった切りにしたことが、一部で人気を博していた。 ところが終戦間もない1947年、 […]
世の中には2種類の本読みがいて、それは『道化の華』を読んで「奇を衒ってるだけじゃねぇか」と思う本読みと「かっけぇー」と思う本読みである。前者にとって太宰は『人間失格』と『斜陽』だけの作家になる。全集などで発表順に太宰を読 […]
太宰のスケベオヤジっぽい道化がハマり過ぎている、私のお気に入りの短編。この小説の力点は、間違いなく風呂場で裸の少女が立ち上がった際の肉体描写にあるだろう。 すらと立ち上がったとき、私は思わず眼を見張った。(中略)コーヒー […]
桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっとまた思い出します。 太宰治「葉桜と魔笛」 「きりぎりす」の「お別れ致します」に次ぐくらいの、印象的で鋭い出だしから始まる、太宰の代表的な短編の1つ。例えば文春文庫にも […]
なんにも作品残さなかったけど、それでも水際立って一流の芸術家だったお兄さん。世界で一ばんの美貌を持っていたくせに、ちっとも女に好かれなかったお兄さん。 太宰治「兄たち」 太宰の女性独白体にハズレ無し。構成としては、ある女 […]
省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。誰とも、わからぬ人を迎えに。 太宰治『待つ』 こいつは厄介な作品である。抽象的というか、形而上的というか、とても思わせぶりで、深読みしようと思えばどこまでも奥深い答 […]
きょうの日記は特別に、ていねいに書いて置きましょう。昭和十六年の十二月八日には日本のまずしい家庭の主婦は、どんな一日を送ったか、ちょっと書いて置きましょう。 太宰治『十二月八日』冒頭より 『新郎』に始まる真珠湾攻撃シリー […]
随分ライトで通俗寄りの作品である。『若草』という女性向けの雑誌に寄稿されたものなので、あのような女性の間で談義できる締め方にしたのであろう。全体に聖書をモチーフにした香りを漂わせているのが、かろうじて文学っぽい。 まあ言 […]
夢にしては、いやにはっきりしているようでございます。あなたには、おわかりでしょうか。まるで嘘みたいなお話でございます。 太宰治『誰も知らぬ』 誰も自分の思考や行動の源泉を正確に把握してなどいない。例えば私は今こうして太宰 […]
しかしこの便器の中の糞尿もどうにか始末をつけなければならぬ。その始末をつけるのが除糞人と呼ばれる人々である。 芥川龍之介『尼提』冒頭より 芥川にしては些か珍しいユーモア小説。しかも説法の体を装いながら、芥川の格調高い筆遣 […]
「死のうか。一緒に死のう。神さまだってゆるして呉れる。」 ふたり、厳粛に身支度をはじめた。 太宰治『姥捨』冒頭より アカデミズムの世界では、どうも『姥捨』は太宰の自殺を巡る資料的価値しか認められていないようで、作品として […]
朝は健康だなんて、あれは嘘。朝は灰色。いつもいつも同じ。一ばん虚無だ。 太宰治『女生徒』冒頭より カロリーの高い作品だ。それでいて味が濃い。 私はこの作品を一気に読み通すことはできない。必ず数ページおきに自己の体験と突き […]
どんな小説を読ませても、最初の二三行をはしり読みしたばかりで、もうその小説の楽屋裏を見抜いてしまったかのように、鼻で笑って巻を閉じる傲岸不遜の男がいた。 太宰治『猿面冠者』冒頭より 『猿面冠者』はある意味、ミステリー作品 […]
きょう一日を、よろこび、努め、人には優しくして暮したい、青空もこのごろは、ばかに綺麗だ。 太宰治『新郎』冒頭より こわい。こわすぎる。私は、この小説内の太宰治が恐ろしい!これは、涼味満点のホラー小説である。 想像してみて […]
太宰治の世界へ入門しようとして、最初期作品であるこの『葉』を読み始めると、躓きやすい。デビュー以前の習作の抜粋を切り貼りして断片的な詩のように仕上げている作品であるため、時系列も世界観も何もかもごちゃ混ぜである。『葉』は […]
初めて本作を読了した後に、思わず唸った。すごい。そして素晴らしい。『走れメロス』的な文体の疾走感と「おっさんの悲哀」が入り混じった、素晴らしいおっさん失踪伝である。 大衆に迎合した作家生活に疑問を感じ「思い切って、めちゃ […]
『懶惰の歌留多』のような一見、稿料泥棒スレスレの「惰文」で脱稿してしまうことこそ、太宰の真骨頂である。彼一流のエスプリとミスティフィカシオンが存分に発揮された怪作。 そもそもこの文章、出始めから「自分は怠惰である」「書け […]
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