『三島由紀夫映画論集成』 / 三島と映画

2021/01/03 ・ 書籍 ・ By 秋山俊
三島由紀夫『三島由紀夫映画論集成』

三島由紀夫は小説家であると同時に映画人であり、自作が数多く映画化された他にも、自分自身が俳優・監督として、クリエイターとして映画に携わることを志向し、『からっ風野郎』『憂国』『人斬り』などの映画作品に出演・監督した。

三島由紀夫と映画

三島由紀夫の「失敗」

しかし、『からっ風野郎』(’60)では、その演技の稚拙さをノイローゼになるほどからかわれ、世間の失笑をほしいままにしてしまった愛すべき三島は(私はこれを、真の敬愛を込めて書いているのである)、もう1つの映画的代表作『憂国』(’66)も、死後、その切腹シーンを嫌って未亡人によって実に30年近く封印されるなど、キャリア的には「惨敗」であり「作家の出しゃばり」で片付けられてしまった感が強い。

無論、『からっ風野郎』などは、追悼の念をもってしても、やはり他愛ない大衆向けのチンピラ映画に過ぎず、最期のエスカレーターのシーン以外にさして観るべきものもない。ほとんどホームビデオ気分で微笑ましく見守るしかない代物である。

肉体による自伝

しかし個別の作品に入り込むのではなく、それら全てを三島由紀夫の人生という文脈に位置づけたとき、これらの作品はあたかも、彼の自伝のような働きをする。すなわち、前もって計画された巧妙なる自殺自演によって完成された、虚実皮膜の偶像的人格・三島由紀夫の「実」の部分が、如実に露出してしまったのが『からっ風野郎』であり、「虚」の表出が『憂国』なのだ(ただしこの虚実は、「自殺の成就=虚構の現実化」により反転させられている)。

『からっ風野郎』の空転ぶりというのは、ちょうど、ボディービルでいくら筋肉をつけても、石原慎太郎に運動音痴とバカにされてしまったことに似ている。文章の中には決して表れない、三島由紀夫の肉体の残り香を、私はこの映画の中に感じ取る。

気を取り直して本の話

しまった。『三島由紀夫映画論集成』の話であった。これはその名の通り、三島が少しでも映画に言及した文章を集成した「映画関連の全集」である。

結論。三島由紀夫のエッセイが大好きで、かつ映画が好きな人間は迷わず買おう(そうは言いつつ、上の写真は図書館から借りたものだ)。

第一の理由は、三島の著作は膨大であり、映画関連の文章をまとめたものが貴重だからである。たとえば澁澤龍彦の映画論であれば、河出書房から出ている文庫本の『澁澤龍彦 映画論集成』で事足りるのだが、三島はエッセイだけで全集10巻分以上の文章を遺しており、本書も約700ページの分厚さを誇る。

それらを時間順やテーマ別にまとめ、索引もつけた本書は、それだけで大変資料的価値が高い。文章は、同一の資料を独自の編集でまとめ上げられるだけで、全く新しい価値を帯びる。一言で言えばそれは「時間」と「世界」を帯びるのである。

第二に、本書にしか収録されていないと思われるインタビューなどが多数収録されていること。私が持っている三島由紀夫全集は旧版の70年代のものなので完全に確認できていないが、いくつかのインタビューは新版にも未収録ではないかと思う。新かな表記であることも、多くの人には嬉しいだろう。

三島由紀夫のオブジェ論

たとえばこの本の中で面白いことの1つは、三島由紀夫のオブジェ論の時間による変化が容易に概観できることである。

彼のオブジェ論は『不道徳教育講座』はじめ、色々なところで出てきているのだが、簡単に言うと俳優というのは監督によって配置されるオブジェ(意思持たぬ物体)である、という主張。彼の考えとしては、特に男というのは社会において、普段から主体的な存在として振る舞っているので、撮影という特殊な環境ではオブジェとして扱われることに新鮮味を感じる、といったことを述べている。

ぼくはなるたけオブジェとして扱われる方が面白い。これは普通の言葉で言えば、柄とか、キャラクターとかで扱われることで、つまりモノとして扱われ、モノの味、モノの魅力が出てくれたら成功だと思う。

[…]ところが俳優、なかでも映画俳優というのは、完全に見られた存在で、映画俳優が人を批判しているとか、人を批判しているとかは、あるまじきことなのだ。

『三島由紀夫映画論集成』

ところが『からっ風野郎』で演技の苦労を知った三島は、この論をいくらか変更する。俳優はオブジェとして監督の言いなりになって成立するような職業ではないと、三島が自説を修正するのだ。

『三島由紀夫映画論集成』の面白さは、このような時間の流れが可視化されている点である。他にも、三島による自作品の映画化作品について言及した文章を並べた章などもあり、面白い。『美徳のよろめき』に対する「これ以上の愚劣な映画というものは、ちょっと考えられない」には笑ってしまった。

なお彼の映画に関する発言で面白いものは、以下の記事にもまとめている。

三島由紀夫の考えるベスト映画と映画論
三島由紀夫が語る「映画と小説の関係」

本についての記事一覧

初版:2021/01/03 ―― 改訂: 2021/01/04

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