堀大輔『睡眠の常識はウソだらけ』 / ヒマだから眠くなる、という事実

2020/12/28 ・ 書籍 ・ By 秋山俊
堀大輔『睡眠の常識はウソだらけ』フォレスト出版株式会社

私は次のように答えました。
「寝なくていいですよ。むしろ寝た方が病気のリスクが高まります。無理に寝ようとしないでください。」

堀大輔『睡眠の常識はウソだらけ』

世の中に流布する、まことしやかで、硬直的で、脅迫的な「睡眠常識」に対するアンチテーゼとして、いささか過激ではあるが、こういう本も一冊は読んだ方がいいと思う。

我々は、睡眠というものの正体をほとんど何もわかっていない――そのメカニズムから機能まで、実は多くが推測に過ぎない――にも関わらず、「睡眠をしないと○○になる」「睡眠は~~だから必要なんだ」といった言葉を、あたかも既に睡眠について知り尽くしているかのごとく断言する。しかしそういう一方通行的な情報ばかりだと考えが偏るのは明白なので、反対側の意見も取り入れて自分で取捨選択せねばならない。

「生物はヒマだから寝る」は事実

睡眠時間はヒマだと増える

私が本書で一番重要だと思ったのは「生物はヒマだから寝る。それは野生の動物を見ていても明らかで、強い肉食動物は襲われる危険がないから昼寝ばかりしており、逆に草食動物は常に警戒が必要なのであまり寝ない」といった意見である。

これは全くそのとおりで、人間にもそのまま当てはまる。たとえば私は自宅のホームシアターに大きめのソファーを導入して、部屋を真っ暗にして毎日映画を観ていたら、睡眠時間が増えすぎて困ったことがある。退屈な映画だと異常に眠くなるのだ。しかしこういう睡眠時間が増えても、夜に寝る時間は不思議とあまり差し引かれないので、トータルでの睡眠時間が増えすぎてしまった。誰しもこういう経験はあるだろう。

アンリ・ルソー「眠るジプシー女」

その睡眠は本物か

勉強をしていると眠くなる、つまらない講義を聴いていると眠くなる……こういった例から、「眠くなるのは、必ずしも肉体が睡眠を必要としているからではない」という結論は容易に導き出せる。そしてこれは何も特定の行動をしているときに限らない。我々が、やりたいことがあるにも関わらず眠くなるのは、単に環境が単調なせいであるかもしれない。こう考えると、日々貪っている惰眠の多くに対し「それは本当に必要なのか?それとも肉体がただ眠くなっているだけなのか?」という検討が必要となる。

睡眠の本質について、「睡眠を誘発する脳内物質が出ているから眠くなる」というのがより根本的な理解であり、肉体はその必要性・緊急性を必ずしも的確に判断できているわけではない。つまり常にやりたいことを抱えている我々は、「あいも変わらず動物的な単純反応で寝ようとする脳」を制御する必要があるのだ。これについて著者の堀大輔は、睡眠導入物質が出やすくなるタイミング(食後など)で眠りたくない場合には、軽い運動をするなど、何らかの対抗運動を起こすことで、過剰で不必要な睡眠を防ぐべきだと主張している。

本能は正しい判断を下せているか

このような意識的な「睡眠阻害」に対して抵抗感を生んできたのは、以下のような強迫観念である。「肉体が睡眠を必要としているから眠くなるのだ。人間は自然に生きるのが一番であり、眠りたいのに眠らないのは身体にとって害である。睡眠時間が足りないと健康が悪化し、思考力が落ち…(以下、延々と弊害リストが並ぶ)」。

これに対して堀大輔は「人間が食いたいときに食いたいだけ食い、セックスしたいときにセックスしていたのでは、問題が生じるのは明らかで、睡眠も同様である」と主張している。これについては完全に同意だし、眠りすぎるとダルくなるという経験とも合致する。動物実験でも、食事の量が多すぎるマウスは、食事量がやや控えめなマウスより平均寿命が少ないというデータが存在する。

私の意見を付け加えるなら、人間は既に人工的に構築された空間で24時間生活しているのだから、本能がどこまで適切な判断を下せているかは疑問であり、全幅の信頼を置くべきではない。

もちろん著者の堀大輔自身も「本当に寝たいのに、無理に起きているのは身体に害」であることは認めている。ここで問題にされているのは「寝る必要がないのに寝るのは身体に害」ということなのである。

ルパート・バニー「居眠り」1904年

全体の構成

睡眠の論文や実験は正しいか

本書には「睡眠は本当に身体にいいのか?」といった、常識を疑う姿勢を身につけるための、数多くの検証が書かれている。従来「信頼に足る」とされ引用されてきた数多くの文献が「実はずさんで適当な調査に基づく睡眠実験」に過ぎなかったことを証明するため、数々の論文がボロクソにけなされる。

こういったこともまた、事実であろう。ハッキリ言って人間の心理や健康についての検証や実験というのは、大半が結論ありきの、内容に疑問符が残るものであり、それを「睡眠を取らないと不健康になる」と喧伝したい健康器具メーカーなどが乱用しているため、矛盾する結論が乱れ飛んでいるというのが現状なのである。

たとえば一昔前まで「人間の睡眠周期は1時間半」というのが「常識」とされていたが、これも今では古い考えとされているし、私の経験にも合致する。健康の「常識」というのは、この手のものが大半である。

堀大輔は、健康業界に流布するマジックワード、「睡眠の質」という言葉の怪しさ、都合の良さを糾弾する。睡眠の正体は分からないし、見えない。だからベッドメーカーや枕メーカーは「それは睡眠の質が悪いからです」と言っておけば、なにか意味のあるようなことを言っていると錯覚させられる。しかし睡眠の正体がほとんど明らかになっていない現状では、「睡眠の質」ほど根拠薄弱で、内容不明な言葉もない。

批判態度を身につけることが重要

この本は全体として、やや冗長でページ数水増しっぽい部分があったり、また著者の堀大輔はショートスリーパーを自認し、つまり短眠というものを商売にしている人間であるため、この本もいくらか過激で偏っている印象を受ける。特にカバーにかかれた「睡眠は万病のもと」などは、いくらなんでも極端過ぎる(編集者が読者を煽るためにつけた文だと思うが)。

しかしそういった部分を考慮しても、「その睡眠は本当に必要か?」という批判態度を身につけるために、本書は一読の価値があるだろう。

適切な睡眠時間は何時間か

この本の中でも再三強調されていることではあるが、睡眠というのは各人の肉体のクセ、生活習慣、またその人がどのようなライフスタイルを実現したいかによって必要量が変わり、どれだけ眠るのが適切なのか、最後の判断を下せるのはその本人以外にない。猛烈にやりたいことがある人間は、勝手に睡眠時間が短くなる。人によっては6時間であり、またある人は7時間と主張するかもしれない。

したがって本書『睡眠の常識はウソだらけ』も、鵜呑みにせずに「1つの視点」として摂取し、自分に合った睡眠スタイルを確立することが最も重要なのである。著者は、自分は1日1時間未満のショートスリーパーであると語っているが、これに飛びついて睡眠時間を減らそうとするのは危険である。念のためにいま1度強調すれば、睡眠時間を“無理に”削ることは、害にしかならないのである。

『睡眠の常識はウソだらけ』目次

睡眠の常識はウソだらけ
まえがき 睡眠の常識があなたを不安と不健康に陥れる
筆者の「睡眠の定義」について

第1章 ショートスリーパー式最高の睡眠の見破り方

私の処女作に対する批判について考えてみる
ずさんな調査が睡眠の常識をつくり出す
現在の睡眠研究のデータはすべて古い?
厚生労働省のずさんな睡眠指針を見てみよう
日本で一番信頼できる総務省統計局発表のデータ
実は日本人の睡眠時間は長くなっている
「寝不足は脳に悪い」を突き止めた当たり前すぎる研究
睡眠研究のメッカ、スタンフォード大学のすごい実験とは?
ショートスリーパーは遺伝で決まるという研究
ショートスリーパーは短命なのか?
人間にとって必要とされている睡眠時間とは?
監獄以下の実験環境
睡眠不足で成長ホルモンが増える

第2章 睡眠の常識にだまされてはいけない

睡眠の最先端研究機関でさえ睡眠の意味を知らない
万人に共通の最適な睡眠時間など存在しない
「7時間睡眠長寿説」は立証されていない
寝ないほうが長生きできる?
現代社会では7時間睡眠は眠りすぎ
睡眠時間と睡眠不足は関係がない
寝てないという気持ちが睡眠不足を生む
そもそも睡眠に浅い・深いの違いなどない
ノンレム睡眠はやる気のない状態と同
疲労と睡眠時間に因果関係はない
現代人は疲れを睡眠によって増幅させる
「眠気=疲労」ではない
脳や身体の疲労が睡眠で回復するわけではない
睡眠中に体調不良が回復したというのは気のせい
眠気は外的要因によっていくらでもコントロールできる

第3章 俗流睡眠論を流布するスリーパーセルの正体

どんな業界が睡眠不足を煽っているのか?
巨大な製薬・医療業界の魔の手が人々に不安と混乱をもたらす
睡眠薬地獄と睡眠不足ブーム 睡眠負債と睡眠肥満
睡眠環境適忘記
選眠学者や専門家が語る眠不足の残念な証拠
睡眠研究の現状と水準
寝具メーカーも人々の不安を煽りすぎないように
「睡眠の質」とはとても便利な言葉
人々にとって受け入れやすい甘~い誘惑

第4章 睡眠が生み出す身体への毒

まずは睡眠がどれだけ害悪か把握する
睡眠時は平均して体温が1℃低下し、免疫力が低下する
睡眠時は代謝が低下する
医者の言うとおりに寝るとアトピーが悪化
睡眠時は酸素が不足する
睡眠時は水分量が低下する
睡眠時は血流が低下する
寝るとうつになりやすい
確かに睡眠不足はストレスを生む
睡眠中毒から抜け出す

第5章 4つの眠気の取扱説明書

眠気にも種類がある
睡眠物質が原因の眠気
カフェインの使い方
本能が原因の眠気
脳波が原因の眠気
ノイズで脳波による眠気を寄せつけない
習慣性が原因の眠気

第6章 入眠と起床の改善が9割

「睡眠の質」とは何か?
共通するのは起床と入眠で苦労している点
寝入りがうまくなるコツ 10分以内を目指す
心身を脱力させる
入浴
寝るときの姿勢を気にしない
寝始め30分がカギ
睡眠中の尿意はどうする?-
起床がうまくなるコツ
ビタミンCを大量摂取して起床ホルモンを出す
起床が難しい人のためのお助けサプリ
多相性睡眠は非常に効果が高い
パワーナップのススメ-
睡眠という欲求の暴走を止めよ

あとがき ある心療内科医の憂鬱

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投稿: 2020/12/28
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