
『本棚が見たい!』というタイトルから「本棚本」だろうと勘違いする。しかし実は本棚は1人あたり見開き2ページのみの掲載で、しかも写真1枚なので、全体像があまり分からない。本棚というより、連なった背表紙の写真に近い。
つまり他の著名人の本棚本にあるような、金のかかった本棚タワーの壮観を愉しむような写真本ではなく(最近で言えば『絶景本棚』(’18)のような本)、これは活字本なのである。本棚をダシにした「本について語る本」である。
3巻まで出ているが、基本的に同じ構成なのでまとめて語る。全部薄い本で、すぐ読み終わる。
『本棚が見たい!』では、著名人(古い本なので故人もいる)がそれぞれに、自分の本棚を見開きで写した後に、自分の本への接し方や、考え方について語る。
よほどのゴミ本じゃないかぎり、読んで損をする本はありませんよ。
筒井康隆
『本棚が見たい!』
本はモノの中でいちばん安いのに、モノの中でいちばん素晴らしい。
和田勉
『本棚が見たい!』
生粋の文筆家や学者だけでなく、数学者や映画監督など、様々な職種の人々の読書論が並べられているのが本書の面白い所。
刑務所の読書術
たとえば『塀の中の懲りない面々』の著者で、服役経験が豊富な安部譲二の読書論である。彼は本を三冊までしか持ち込めない堀の中で「一冊をいかにゆっくり味わうか」という「遅読術」に邁進したという。
仕方がないから、限られた私本をじっくり時間をかけて読む。しかし、それこそ一字一字丁寧に読んでもまだ時間はある。そこで、難しい漢字に出くわすと書き方を覚えながら読み進んでいく。これなら、一冊の本を読み終えるまでかなり時間がつぶせる。
服役の経験があるかどうかはタバコの吸い方なんかでもわかるんですが、漢字が書けるかどうかでもわかる。堀の中で過ごした経験がなければ、憂鬱とか薔薇なんて漢字がヤクザに書けるはずがありませんからね(笑)。
安部譲二
『本棚が見たい!』
なお後半で安部譲二は、夏目漱石は『坊っちゃん』と『吾輩は猫である』が大好きだったが『三四郎』や『それから』は全然面白さが分からなかったと語っている。
私の考えだと、漱石の作品は『こころ』『吾輩は猫である』などは大衆向けで読みやすいが、それ以外では難解だったり晦渋だったりするものもあるので、同じ作家ながら作品によって好き嫌いが分かれると思う(どうでもいいけど、「漱石には駄作も多い」みたいな話をした本の後半で夏目房之介がインタビューされてて笑った)。
インスピレーションを授かる読書術
また山田太一の「本は、自分を掻き立てる道具。わざと全部読まないこともある。」という読み方は、私もする。これはブログでも何でも、習慣的になにかを書いている人におすすめの読み方。

たまたま開いたページで目についた数行の文章から何かを思いついたり、いろんなことを考えたりすれば、その本は自分を刺激し、かきたてる役割を果たしてくれたことになる。
「著者の文体とか、もののとらえ方にふっとヒントを貰えたら、その本はもう読みたくないというか、早く自分の世界を創りたいと思うんですね。」
山田太一
『本棚が見たい!』
私にも、ものすごく気に入っている本なのに、あえて一気読みせず、自分を掻き立てるために、ランダムにチビチビ読んでいる本が何冊かあり、ずっと手近な棚にしまっている。
他には3巻で橋本治の本棚を見れてよかった。私は彼の『デビッド100コラム』や『ロバート本』などのファンだが、その中で「自分は誰かの全集をいきなり買って読みまくるタイプ」と語っていたが、その通りの本棚になっていた(しかしなぜにバルタン星人が置いてある?)。

3巻読んでやや拍子抜けだったのは、別にそんなに風変わりな本棚はないこと。内藤陳が本棚ではなく本山(ほんやま)を床からひたすら積んでいて、地震がきたら死にそうだなと思ったくらいである。あと多分、沢山本があるが、やっぱりこの中でちゃんと読まれた本は1/3未満かなとも思った(笑)。
巨大な本棚を見たい人、文字通り本棚を中心に見たい人には、先程紹介した『絶景本棚』の方がおすすめである。
オススメ度:8/10
最後に、1巻で紹介されている人と、その見出しを参考までにまとめておく。
- 筒井康隆――よほどのごみ本でない限り、読んで損をする本はありませんよ。
- 内藤陳――一冊一冊、征服している感じです。だから積んじゃうのかなあ。
- 山田風太郎――江戸川乱歩さんの「心理試験」は今でも十分新鮮さを感じますね。
- 荒巻宏――本を管理する癖が出来なかったのは、貸本屋で読書週間がついたせいかなあ。
- 高村薫――本棚を工業技術ハンドブックでいっぱいにする。それが私の夢です。
- 村松友視――自分にノルマを課して努力しないと本は読めないタイプなんです。
- 吉村昭――いま、一番怖いのは品がこれ以上増えることですね。
- 高橋克彦――子供時代、布団の中で熟読した乱歩、おやにみつかって、“焚書”の刑に…
- 畑正憲――海外では、とにかく書店を歩く。ベストセラーの棚は見逃さない。
- 和田勉――本は物の中でいちばん安いのに、モノの中でいちばん素晴らしい。
- 阿刀田高――自分が面白ければ良書と、ごく素直に思いこんでいました.
- ジェームス三木――ななめ読み、拾い読みなんて、とてもできない性分なんです。
- 安部譲二――堀の中でくだらない本に出くわすと、激怒して壁にたたきつけていた。
- 山田太一――本は、自分を掻き立てる道具。わざと全部読まないこともある。
- 細川護熙――ベストセラーに興味はない。名著だけを精読、再読をする。
- 上之郷利昭――読んだり、調べたり、書いたりするのが好きなんです。
- 竹中労――段ボール何杯もの本と格闘し、発酵させて、取材に駆け回った。
- 日高公人――本はみな好きです。立派な本だけ読みたいと言う人は信用できない。
- 吉村作治――すぐに必要ない本も買う。何世紀かあとに誰かが必要とするかもしれないから。
- 市川森一――僕の本棚は資料探しの残骸置き場のようなもの。
- 夏目房之介――本棚は自我が素直に出ると思う。僕のは、ぐちゃぐちゃな自我ですね。
- 木田純一郎の本――思いの深い作家の本は、どうしても手元に残りますね。
- 堀田力――司法試験で落ち込んだとき、井上靖『あすなろ物語』が心の支えに
- 秋元康――本はアイデアを発酵させる起爆剤みたいなもの