淀川長治への印象変遷

日曜洋画劇場で育った世代で、小学生の時はまだ淀川長治が存命中だったので、当然私も彼の語りには親しんでいた。とにかく映画のことなら何でも知っていて、毎週TVに出てくる映画界の黒柳徹子だと思っていたし、「サヨナラ、サヨナラ」という温かみ溢れる別れの言葉、画面上では決して作品にケチをつけない戦略などで、私も他の少年と同じく「優しい映画おじいちゃん」というイメージを抱いていた。

大人になってから改めて彼に接すると、子供のときには見えなかった暗黒面のようなものも垣間見え、印象が変わってくる。

例えば彼は意外と口が悪いというか、本音だと辛辣なところがあるんじゃないかと思う。この『淀川長治 究極の映画ベスト100』の中でも『市民ケーン』(’41)の解説で「皆さん。ごらんになったでしょう。えっ?見ていない?そんな人とは口もききたくありません。軽蔑しますよ」とか、偏狭なマニアみたいなことを言っている。他にも『恐怖の報酬』(’53)や『太陽がいっぱい』(’59)なんかは、ホモセクシャルならではの視点で解説していて、そういうのに耐性がない日本人は「ゲーッ」となってしまうかもしれない。

ポイントを絞った独自視点が光る

まあそれは置いておいて本書の内容だが、編集作業で濫造されている淀川のベスト本の中ではバランスが良い方ではないだろうか。『ベスト 1000』はボリューミーだが辞書みたいで、1作品ごとの解説が薄すぎる。その点、本書は1つの作品を見開きで紹介し、右側にデータとあらすじ、左側に短評を載せ、短評には1つ2つにポイントを絞って無駄なく書いてあるので十分という感じがする。

淀川解説の特徴の1つとして「常に自分の言葉で語っている」というのがある。口調に癖があるというのもあるが、この本でも彼自身が着目した点について伸び伸びと語っており、その辺の評論家やライターが多用する「その作品を語る際のテンプレート的なウンチク」に頼らないし、営業トークという感じもしない。

その言葉の厳しかったこと。怖かったこと。これはなんとも知れん人間愛に溢れた名作。

p.43 『大いなる幻影』

女のオリジナル、男のオリジナルが、こんなにはっきりと怖く出た映画はありませんね。

p.97『道』

また蓮實重彦みたいに、「いかにも映画通」といった視点やペダントリーに偏らず、肩肘張らずに語っているので誰にでも読めるのもポイント。この辺のバランスがTVで重宝され続けた理由なのだろう。

基本的には有名洋画の解説

なお掲載されている100作品だが、本書は淀川長治の死後に出版されたものであり、作品選考は編集者が「よく言及していたもの」「なるべく各時代に満遍なく」という基準で選んでいる。そのため別に「ベスト100」ではない。「タイトルに偽りあり」である。そのためと言っては何だが、巻末にどこかで言及していた様々な「マイベスト」のリストがある。

掲載タイトルは古い白黒映画や芸術作品が多めで、アクションは少ない印象だが、いわゆる「名作」と呼ばれる有名作がほとんどである。掲載タイトルをいくつか挙げると『メトロポリス』『甘い生活』『ジョーズ』『日の名残り』などなど。「これは抑えておきたい名作選」といった感じのリストなので、どちらかと言えば最近映画を観始めた人にオススメである。

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投稿日時: 2019/10/14
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