『ジェントルメン』解説【ラジオ】

2021/05/06 ・ 映画 ・ By 秋山俊

久々の投稿で、クローネンバーグ監督の『ビデオドローム』とか、意味不明系の映画の解説をしてみようかと思ってたんですけど、ガイ・リッチー監督の新作『ジェントルメン』が5/7に公開されるということで、志を捨てて新作映画の紹介をしたいと思います。

で、ガイ・リッチー監督ってポジション的にどうなんですかね。映画好きは知ってるだろうけど、そうでない人は、彼の作品名は知っていてもそれがガイ・リッチー監督作品とは知らない、みたいなパターンが多いと思うんですけど。面白い監督ですよ、この人は。クセがあるけど。

で、彼の新作の『ジェントルメン』がどんな映画かざっくり言うと、「犯罪計画が他人の横槍でどんどん狂っていってカオスになっていく様子を楽しむコメディ映画」です。犯罪者が次々に出てきてお互いに裏をかきあう群像劇なんで、話の構造が複雑で前半が分かりにくいんですけど、後半に行くほどバラバラだった話がどんどん一つにまとまるパズルみたいな映画で、話についていくのが大変だけど、ついていければ面白いって感じの映画ですね。

ガイ・リッチー映画の特徴

っで、これってガイ・リッチーって監督を知っている人にとっては「あっ、そのパターンね!」ってわかると思うんですけど、こういう、1つの犯罪計画にいろんな悪人が勝手に食いついてきてワケが分かんなくなるっていうのが、この監督の一番得意な作風で、元々それで大ヒットを飛ばした人なんですね。最近はどっちかというと、ロバートダウニーJrの『シャーロック・ホームズ』とか、ディズニーの『アラジン』の実写版とかで名を馳せてる監督なんですけど、元々の作風はこっちなんですよ。

初期作品の『ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』とか『スナッチ』って映画がガイ・リッチー作品の典型で、彼の映画の特徴はとにかく、会話がシャレていて、リズムやテンポがメチャクチャいいこと。この人、ミュージック・ビデオ出身の監督なんですけど、そのせいあってか、セリフそのものが一種の音楽のようなリズムを持っていて、メッチャ小気味よく会話が進むんですね。もう一種のラップみたいな感じで。字幕だと分からないけど、英語のセリフだと一々韻を踏んでたりしてて。

セリフのセンスもすごくよくて、たいてい監督自らが脚本も書いてるんですけど、セリフのあとにボソッと付け加える言葉とかが一々面白いんですね。ストーリーを進めるための適当な掛け合いじゃなくて、会話が全部漫才みたいになってる、みたいな。一言で言えば、テンポとリズムで楽しませる監督。

ガイ・リッチーはタランティーノなのか?

あとよく言われるのが「ガイ・リッチーはイギリス版タランティーノだ」ってことで、実際にガイ・リッチーがクライム・コメディ映画を作ると、ちょうどタランティーノの初期の『レザボア・ドッグス』とか『パルプ・フィクション』に似た雰囲気になるんですけど、今回の『ジェントルメン』も雰囲気はそんな感じで。

この映画のストーリーについてもうちょっと詳しく話すと、『ジェントルメン』だと、物語の主人公が、麻薬ビジネスで大儲けした、とある大物犯罪者で、その彼が自分のビジネスを他人に売り渡そうとするんだけど、そこに他の犯罪者たちが自分たちの思惑で勝手にどんどんちょっかい出したり、全然関係ない他人が知らぬ間に絡んだりしてきて、話が全然ワケわからない方向に行って、「うわー、これどう収集するんだ?」って思ってたら、最後に一気にシュッ!っとまとまるという。まあガイ・リッチーのクライム・コメディって毎度このパターンの群像劇で、実際に『パルプ・フィクション』みたいなのが好きな人だったら、ガイ・リッチー作品も気にいるかなと。

ただ「ガイ・リッチーとはタランティーノである」っていう乱暴な要約は、分かりやすくて人に伝えるにはいいんだけど、やっぱりガイ・リッチーってガイ・リッチーなんですね。二人とも脚本能力がずば抜けた映画監督で、ガイ・リッチーがタランティーノから強く影響を受けているのは間違いないけど、僕としては、この二人の監督は、監督としての得意技は同じなんだけど、その得意技が発揮される領域が異なると思ってて。

どういうことかっていうと、たとえば二人とも映画のベースは会話劇で、登場人物たちの掛け合いで楽しませる脚本を得意とするのは同じなんですけど、タランティーノの脚本っていうのは、本筋に全く関係ないシークエンスを丸々用意して、そこでひたすら無駄話をするんですよ。「フランスでマクドナルドのハンバーガーがどう呼ばれているか?」とか。

それに対して、ガイ・リッチー映画だと、会話そのものはあまり本筋から外れないんですよ。ちゃんとストーリーを進めるための会話が行われてるんですね。ただセリフの二言目にボソッと付け加える言葉が一々面白かったりして、そういう気の利いた言葉がほとんどすべてのセリフに仕込まれてるって感じで。そういう気の利いたセリフが絶え間なく続いて、そのリズムで楽しませる映画を作る人が、ガイ・リッチー。

ガイ・リッチー波乱万丈

まあタランティーノと比較し始めるとですね、他にもタランティーノはサブカルチャー全域を引用するけどガイ・リッチーは言葉を引用するとか、タランティーノは映画という文化そのものをメタフィクションとして組み込むけどガイ・リッチーは映画の中で映画を上演するとか、切り口がまだまだあるんですけど、この辺をグダグダ話しているとたいてい「だから何?」って顔されるので省略します。

つまるところ、タランティーノっていうのは大胆に、本編そっちのけで、最初から最後まで場外乱闘みたいな映画を作る人なんですけど、ガイ・リッチーはもう少し正統派で、ちゃんとリングに戻りながら戦うんですよ。これわかりますかね?わかりますか?わかったってことにします。

今の所、ガイ・リッチー監督には大きく2種類の映画を作っていて、1つが今話した犯罪者たちが繰り広げるカオス系群像劇。もう1つが『シャーロック・ホームズ』とか『アラジン』みたいな原作付きの映画の実写化。

脚本書くのが得意な監督だから、ガイ・リッチーらしさが存分に発揮される映画っていうのは、原作のない、彼オリジナルの作品の方なんですけど、世間的には原作付きの方がウケてるんですよね。原作付きの映画は今の所全部大ヒットしていて、『シャーロック・ホームズ』は2010年代のホームズのリメイクブームを巻き起こして、『アラジン』は単純に映画としてメチャクチャ面白かった。映画好きに期待されているのがクライム・コメディの方で、世間一般に期待されてるのが原作付きの映画なのかな。

で、あとガイ・リッチーは色んなヒット作を持ってるから、すごい成功している監督ってイメージだけど、結構派手な失敗もしてるんですよ。レーシングに喩えると、ガイ・リッチーがハンドルを握ると新記録を作り出すか、他のマシンを巻き込んでクラッシュして観客席まで吹っ飛ぶかの二択しかないような人なんですね。

この人の元奥さんって、あの有名なマドンナだったんですけど、奥さんが出演した『スウェプト・アウェイ』って映画が大コケしたり、最近だと『キング・アーサー』って映画作ったんだけどコケまくって、ワーナー・ブラザースが200億円くらい赤字になって、もう「映画災害」みたいな?そういうド級の映画災害を引き起こしたりもしていて、結構浮き沈みが激しいというか。特に2010年代は結構ピンチだったんじゃないかと思うんですけど。

このヒトの最近の流れを言うと、2015年の『コードネーム UNCLE』がコケ気味で、その次の『キング・アーサー』が下手したら会社潰すんじゃないかってくらい大コケして、超ヤバいってときに『アラジン』が大ヒットして、で、今『ジェントルメン』で原点回帰的な作品を作って、これもちゃんと安定して収益を生み出したから一安心みたいな流れなんですけど。

で、多分この監督は、ここ10年くらい『シャーロック・ホームズ』とか作ってたけど、またこういうクライム映画路線に戻ってくるつもりなんじゃないですかね。日本で『ジェントルメン』が公開される全く同じ日に、海外だと次の作品である『ラース・オブ・マン』が公開されて、トレイラー見る限りこれも同じようなクライム映画っぽいんですけど。

ただ今回の『ジェントルメン』も含めて、彼の作る軽快なクライム映画って安定した面白さがあって、特に処女作の『ロック・ストック』は僕も大好きなんですけど、パターン自体は毎回、1つの犯罪計画に色んな奴らが便乗してきてワケ分かんなくなるってパターンで決まっているから、厳しく見ればマンネリというか、すでに自己模倣とか過去の再生産に陥っているきらいもあって。ていうか、この人の2作目の『スナッチ』ですら「焼き直しじゃん」って批判があったくらいだから。あんまり引き出しの多い監督じゃないんですよ。

だから『ジェントルメン』も、ガイ・リッチー作品を観たことがない人、ガイ・リッチーの初期作品みたいなノリをもっと期待している人には文句なく面白い作品だと思うけど、「もうあの作風はいいよ」って人には評価の下がる作品じゃないかと。『ジェントルメン』に関しては、そんなとこですかね。

で、最後にちょっとチャンネルの報告というか、最近また落ち着いてきたんで動画投稿再開するつもりなんですけど、なんか今、このチャンネルに来ている人で一番多いのって、サウジアラビアとかの人なんですよ。僕も気がついてびっくりしたんですけど、先日からアラビア語のコメントがメッチャ増えてて。で、どうも書き込まれているコメントを翻訳すると、以前紹介した『KUSO』って映画がアラビア語圏で話題になっているというか。Tiktokをキッカケに広く知れ渡っているそうで。で、YouTubeで『KUSO』という映画について熱心に語っているのがこのチャンネルくらいなんですよ。だから日本語の動画なのにサウジアラビアやイエメンから大量に人が来ているという状況で。多分すぐに収まると思うんですけど、もしかしたらアラビア語のコメントを見かけるかもしれません。そんなところですね。

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投稿: 2021/05/06 ― 更新: 2021/05/11
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