隠れたホラー映画の傑作『バスケットケース』ラジオ文字起こし

2020/11/21 ・ 映画 ・ By 秋山俊

今回紹介する『バスケットケース』は、一般的には全然知られてないマイナーなホラー映画なんですけど、ホラーファンの間ではカルト的な人気があって、まさに「知る人ぞ知る傑作」と言っていい作品。傑作というか、怪作なんですけど。

たとえば映画マニアである漫画家の荒木飛呂彦は、ベストホラーの第14位にこの『バスケットケース』を挙げていたり。他にも2017年に突如として、ニューヨーク近代美術館の映画コレクションに収録されることが決定したことからも、この映画にある、ただの娯楽作にとどまらない芸術性が認められていると言えるんじゃないかと。

この映画が公開されたのは1982年で、内容はもう、見るからに低予算映画。16mmで撮ってるから映像は粗めで、金も全然かけてないけど、作った人間のセンスと情熱でもにすごくパワフルな映画になってる、そんな作品です。

『バスケットケース』あらすじ

ではどんな内容なのかというと、タイトルが『バスケットケース』になっているように、この映画の主人公は常に、どこにいくにも大きなカゴを抱えていて、これがまず大きな謎になっている。「このカゴはなんなんだ?」って。カゴを抱えた青年もちょっと奇妙な人物で、どう見ても世間知らずな若者なのに、大金を現金で持ち歩いてホテル暮らしをしている。

『バスケット・ケース』1982年

それでこの青年がバスケットケースを抱えたまま、どうも人を何人か探し歩いているようで、さらにこの主人公と出会った彼らは、次々に無残な殺され方をしていく、というストーリーになっているんですよ。この青年が持ち歩いてる中身は何なのかは、なぜ出会った人が変死していくのか、というのが少しずつ解き明かされていくサスペンスになっている。

なぜ『バスケットケース』は面白いのか

それでこのカゴの中身は、ポスターにも描かれいるように化け物が潜んでいるんですけど、ただの化け物じゃなくて。主人公と深い関係がある。ここが面白いところで、そういった主人公と化け物の関係も含めて、この映画はとてもオリジナリティが高くできている。どっからその設定考えついたんだろうって感じで。独自性が強いから、展開があまりお約束的にはならなくて、そのせいで印象深い。

『バスケット・ケース』1982年

しかもこの映画は設定が奇抜なだけじゃなくて、それが人物関係やストーリー展開にも上手く反映されている。謎の出し方とヒントの与え方が上手いんですよ。最初の医者が殺されるシーンからちゃんと伏線が張られていて、謎を少しずつ回収しながら、新しい疑問もどんどん出てくる。たとえば主人公は夜中に1人でいて、話し声は全く聞こえないのに、一人で勝手に「うるさいぞ。寝られないじゃないか」とか叫んでるんですね。そういった謎が、全て物語の中で1つに繋がっている。

ちなみに化け物の正体について、皆さん、何だと思います?これ多分、知識なしで的確に当てられる人はほとんどいないんですよ。半分は当てられるけど、もう半分は映画を観ないと分からない。実は肝心の正体が、映画の説明書きとかにも平気で書いてあるんですけど、知らないで観た方が絶対面白いと思うので、もし興味あったらレビューとか概要とかパッケージ裏とか一切観ないで、映画を直接観ることを勧めます。

低予算を物ともしないパワー

それでこの映画は、そういったストーリー面の面白さに加えて、実は「低予算である」ということそれ自体が、カルト的な人気を博している理由なんじゃないかと睨んでいます。どういうことかというと、バスケットケースの中にはあるバケモノが潜んでるんですけど、予算がないせいでバケモノの描写が、ストップモーション・アニメで力付くで撮られているんですよ。

『バスケット・ケース』1982年

しかもバケモノの造形とか、それに襲われた人の特殊メイクとかが、すごく荒々しい。荒々しいんだけど、それゆえに、とてつもなくパワフル。予算ないけど、こういうシーンを表現したくて、それを撮ってやるぜってパワーに溢れた表現。この表現のパワーに観客はやられてしまう。

バケモノの叫び声がスゴい。普通の映画の、ガオー、みたいな上品な化け物じゃない。まさしくケダモノ。このクリーチャーは様々な負の感情を抱えてるんですけど、それがそのまま表出したような声の演技と演出で、観るものを圧倒する。あのバケモノの叫び声に、作り手の情念が宿ってる。これは美術でいうと、原始芸術にあるような力強さで、そこがこの作品の魔力なんじゃないかと。

それに加えて、映画の舞台となる安ホテルの雰囲気もマッチしていていいですね。もうほとんどドヤ街の底辺ホテルみたいに薄汚くて。そこで何度も発狂する人間が出てきて、宿の主人が「ここはまるで精神病院みたいだ!」って叫ぶんですけど、あそこは主人公たちにとって、ある意味本当に精神病院なんですよ。この映画は後半から人間の劣等感や嫉妬、差別意識というものをあけすけに描く、エゲツないストーリーになっていって、そういう点でもただの娯楽映画ではないですね。結末が取り分け壮絶で。

『バスケット・ケース』1982年

処女作が持つハングリー精神と作家性

この映画はフランク・ヘネンロッター監督の処女作品で、他には『ブレインダメージ』とかを撮った監督なんですけど、当時はとにかく自分が撮りたいものを撮って、それをB級映画を流している映画館に売りつけて、後は誰も見なくてもいいや、と思っていたらしいです。だから映画館に列ができているのを見たときにはビックリしたとか。

こういう処女作特有のエナジーというのは不思議ですね。その監督が映画を撮るまでに溜めてきたアイディアとか、情熱とか、あるいは劣等感とかが全て表れてしまう。だから映画に作り手の人間臭さが出る。比較的近い時期のホラー映画でいうと、たとえば以前動画でも紹介した、スチュアートゴードン監督の『死霊のしたたり』は、それまで演劇をしていた監督の初の映画作品で、やはり物凄くハングリー精神や表現意欲に富んだ作品。いくところまで行ってしまうという。

逆に物事に慣れてくると、全てに対して全力を尽くすことはできなくなってきて、手癖で作ってしまう部分はあると思うんですよ。映画でも文章でも、物作りは何でも。完成とか洗練というものは、逆に見ると新しいことに挑戦せず、以前のものをバージョンアップしているに過ぎないとも言えて、そういう人間の限界を考えると、処女作は自己模倣せずに作れる唯一の作品なのかもしれない。

『バスケット・ケース』1982年

だからこういった作品は、元気を出したいときに観ることもあって。エネルギーを分けてもらうというか。失敗を恐れず、なりふり構わず撮っている姿勢から学ぶものがあると思ってて。予算がなくても素手で撮影し倒すみたいな。この映画の中にも、夜の街を全裸で疾走しているシーンがあるんですけど、ああいう体当たりっぷりですね。

そういう意味でこの映画は特に、クリエイターの人に観て欲しい作品です。そして観るときは、画面が汚いとか作りが安っぽいとか、そういう表面的な部分ではなく、画面から横溢する作り手のスピリットのようなもの、そういった部分を汲み取ると、この作品がなぜ永くホラーファンの間で語り継がれているのかが分かってもらえると思います。オンデマンドで配信もされているので、観た人がいたら感想を残してもらえると嬉しいですね。

追記:以下は『バスケット・ケース』と『鬼滅の刃』を「カゴの中の怪物」という類似点から論じたもの。

http://bunkaku.net/manga/12293/

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投稿: 2020/11/21 ― 更新: 2020/12/03
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